日本よりも感染拡大が深刻な欧州や米国では、感染者が出た職場や店舗を消毒するサービスが急成長している。作業を担当するのは「特殊清掃」のカテゴリーに属する清掃業者で、従来は、殺人、自殺、孤独死などの現場を清掃するのが主な仕事になっていた。 米国シカゴを拠点とする「Aftermath Services(アフターマス)」は、20以上の州で認定を受けている特殊清掃業者で、犯罪現場の清掃を警察、被害者の家族、大家などから請け負っている他、血液からの感染リスクが高い、B型肝炎、C型肝炎、HIVなどが死因となった病室や自宅の消毒、清掃サービスを行っている。 さらに昨年からは、新型コロナウイルスの感染現場となったオフィスや店舗のクリーンアップサービスも提供して、需要が急拡大している。コロナウイルスを殺菌するには、米国環境保護庁(EPA)に承認された特別な消毒剤(13品目)を使う必要があり、これらの薬剤を合法的に使用できる業者は限られているため、独占的な業務として依頼が殺到している状況だ。 ■Aftermath Services 新型コロナウイルスのクリーニング工程は、作業者が防護服を着用した上で、感染現場の消毒、ウイルスが再度付着しないようにするコーティング剤の塗布、証明書の発行という流れになる。 コロナ感染後のクリーニングを行う料金設定は、消毒清掃する床面積が1平方フィートあたり1~1.5ドルが業界相場となっており、日本円に換算すると3.3平米(1坪)あたりが、3800~5700円になる。売り場面積が300坪の店舗全体を消毒清掃すると、114万~171万円になる計算だが、食品を扱うスーパー店舗と、製造業の工場では使用する薬剤が違い、エアコンや換気扇の中までを消毒殺菌するのかによっても、実際の見積金額は違ってくる。 それとは別に、コロナ感染は起きていない段階で、予防的な消毒クリーニングのニーズも、商業施設やオフィスを中心に高まっている。こちらは感染後のクリーニングと比較して、3~5割安い価格相場が形成されているが、業者によっても効果の信頼性は異なっている。
【日本の特殊清掃業界】 特殊清掃の仕事は使用する薬剤の知識を学び、消毒方法のトレーニングを受ければ作業自体は難しいわけではない。しかし、死体の現場に立ち会ったり、感染リスクのある厳しい仕事で、米国では通常の清掃員が時給10ドル前後であるのに対して、特殊清掃の専門スタッフは、時給15~25ドルで求人募集がされている。月収では5000~6000ドル(約54~64万円)が、この仕事で稼げる目安になっている。 日本でも、特殊清掃の業界は古くから存在しているが、孤独死する高齢者が増えていることから、遺品整理の仕事から参入してくる業者が増えて、現在は国内に約600の特殊清掃業者が存在している。さらに、コロナ感染現場の消毒、除菌を行える業者として注目が集まっている。 2020年、豪華客船ダイアモンドプリンセス号の船内で大規模クラスターが発生した際に、除染作業を担当したのは、特殊清掃のパイオニアでもある、株式会社リスクベネフィットという会社だ。企業や一般世帯に対しても、新型コロナウイルス除菌サービスを行っており、ライトプラン(1平米あたり1000円)、スタンダード(1平米あたり3000円)、パーフェクトプラン(1平米あたり6000円)の3コースが設定されている。パーフェクトプランでは、ダイアモンドプリンセス号と同等レベルの除菌作業が行われる。
同社は、孤独死や動物の死骸が放置された部屋を、オゾンの殺菌作用と高圧水蒸気で完全消臭する独自の技術を持ち、特許を取得している。この技術を元にして、日本除菌脱臭サービス協会が「脱臭マイスター」という業界資格を創設して、全国の同業者に、強烈な死臭を消すためのノウハウが共有されている。 さらに「特掃隊」というフランチャイズチェーンを作り、各都道府県で1社限定の加盟店網を築いている。加盟店が清掃機材を揃えるのに必要な最低開業資金は200万円~で、毎月固定のロイヤリティ(担当する商圏の広さにより4万~44万円)を払う契約になっている。 ■リスクベネフィット ■日本除菌消臭サービス協会 《特殊清掃業者が手掛ける業務内容》 孤独死や自殺があった部屋の清掃、洗浄、消毒 家財道具の撤去、廃棄、売却 ゴミ屋敷になった部屋の清掃 犬屋敷・猫屋敷となった部屋の清掃 火災現場の清掃 水害(床上浸水、床下浸水)現場の清掃、消毒 コロナ感染現場の清掃、消毒 特殊清掃業に公的な認可制度は無いが、手掛ける作業内容によって、廃棄物処理業や、解体作業を行うために必要な建設業のライセンスなどを取得した上で、専門技術を磨いていく必要がある。最初の業者に依頼したものの、部屋の臭いが完全に除去されていないため、別の業者に再依頼されることが多いのもこの業界の特徴である。
【感染予防としての光触媒コーディング】 特殊清掃ほどハードな仕事ではない分野では、室内を光触媒コーティングするサービスへの依頼も、飲食店、商業施設、病院などを中心に急増している。光触媒のコーティング剤は、二酸化チタンが主成分となっており、そこに日光や照明の光が当たると、空気中の有害物質を酸化分解する反応が起き、細菌やウイルスの殺菌効果が高いと言われている。 従来は、住宅の外壁塗装、タバコやペットの消臭、トイレの殺菌などを目的に、光触媒が施工されるケースが多かったが、コロナ感染対策の補助金適用とする自治体が増えたことで需要が急拡大しており、施工加盟店を募集するフランチャイズチェーンが多数登場してきている。 光触媒コーディングの料金設定は、床面積3.3平米(1坪)あたり6000~8000円が相場で、平均的な戸建住宅の屋内施工で25~35万円の料金になる。その中の約20%がコーディング剤の仕入原価、残りの80%が利益を含めた施工作業料となっている。フランチャイズ本部は、コーディング剤の卸売とブランド使用料を含めたロイヤリティ(売上の10%前後)を徴収するビジネスモデルだ。 光触媒の施工料金が高いのは、コーディングする表面に極薄で均一に液剤を噴霧しなければ、性能通りの効果が得られないためで、熟練した技術を持つ施工者ほど殺菌効果は高くなる。しかし、コロナ禍以降は、依頼件数の増加に対して、施工技術者の育成が追いついておらず、充分なトレーニングを積んでいない、個人請負の新規開業者を現場に送り出す業者が増えている。 光触媒の殺菌性能については、一定の効果があることが学術論文の中でも実証されているが、正しくコーティング施工されていなければ意味がない。同レベルのコーティング剤を使っても、業者によって施工品質は大きく異なるが、ユーザー側の立場で、それを確認する方法が無いところが問題点である。 (JNEWSより引用)