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IoTによる空気品質管理の新市場

新型コロナは、消費者の生活や経済に多大な影響を与えているが、環境面ではプラスの作用も出ている。世界の主要都市がロックダウンされて、工場の操業停止、貨物輸送や通勤者による交通渋滞も無くなったため、大気汚染のレベルは、20世紀以降で最も改善されたという報告が相次いだ。

アメリカ合衆国環境保護庁によると、ロサンゼルスのPM2.5濃度は2020年3月の時点で、コロナの流行前よりも40%減少した。中国、スペイン、インドなどでも、主要都市のロックダウン中には、大気汚染が40~60%近く改善している。経済が再開されると元の状況に戻ってしまうが、コロナ後には「空気のきれいな地域」の価値が、これまで以上に高くなる可能性がある。


【PM2.5汚染とコロナ死亡率の関連性】

ハーバード大学公衆衛生学部の研究者が、米国内で98%の人口をカバーする約3千ヶ所の地域で、空気汚染とコロナ死亡率の関係を分析した論文によると、PM2.5の濃度が1立方メートルあたり、わずか1マイクログラム(100万分の1グラム)高いだけで、新型コロナ感染による死亡率は15%上昇することが報告されている。

大気汚染指標の1つになっている「PM2.5」は、空気中に浮遊している直径2.5μm(マイクロメートル)以下の微粒子のことを指し、ばい煙・粉じん・硫黄酸化物(SOx)などが原因物質となっている。

PM2.5は粒子が非常に小さいため、汚染濃度が高い地域に長期間住むと、肺の奥にまで入り込んで、呼吸器や循環器疾患による早期死亡のリスクが上昇することは、過去の研究からも検証されている。新型コロナについても肺や血管に出る症状が重いことから、PM2.5の汚染濃度が高い地域ほど死亡率が高くなることを、同論文の分析結果は裏付けている。米国の大気汚染とCOVID-19死亡率(ハーバード大学論文)PDF
  https://bit.ly/3hF3ftT

日本の環境省が定めた基準では、PM2.5濃度の1年平均値が1立方メートルあたり15マイクログラム(15μg/m3)以下、かつ1日平均値が35μg/m3であることが、安全に生活できるエリアの目安で、1日平均が70μg/m3を超すと、不要不急の外出や屋外の運動を控える指針にしている。この基準値は国によっても異なっているが、裏を返すと大気汚染が悪化している国ほど、規制は緩やかになっている。



新型コロナの症状悪化とPM2.5の関連性については、まだ研究段階だが、人間の行動心理として、コロナ後は、できるだけ空気がキレイな環境を求めるようになることは不可避と言えそうだ。大気汚染の状況は、同じ国の中でも、場所や時間帯によっても変化しており、生活や仕事のスタイルによっても、PM2.5の曝露量は変わってくる。


新型コロナの感染対策として「3密を防ぐこと」が重視されているが、同時に空気環境の良い場所を求めて、人間の行動はどのように変化していくのか、そこに関連したビジネスに注目した。


【IOTで可視化される大気汚染レベルと空気品質】

大気汚染が健康に与える被害は、戦後の高度成長期から指摘されてきたことだが、近年では各種センサーの普及によって、身近な空気の品質をデータとして可視化しやすくなっている。大気汚染の原因となっているのは、空気中に浮遊する超微粒子の存在で、自動車の排気ガスや、工場や建設現場から出る粉じんの他にも、花粉、黄砂、タバコの煙、室内のハウスダストなども含まれる。



慶応大学理工学部の研究チームが2019年6月に発表した研究結果によると、地下鉄駅構内のPM2.5濃度は、地上よりも5倍以上高く、午前9~10時の1立方メートルあたりの平均濃度は約120マイクログラム、全時間を通しての平均濃度も70マイクログラムで、環境省が示している安全空間の基準値(15マイクログラム)よりも4倍以上高い。


これは、地下鉄車両がブレーキをかける時に、車輪とレールとの間で生じる金属の超微粒子が駅構内に充満するためと考えられており、車両の発着が多い通勤時間帯ほどPM2.5濃度は高くなる。これが即、健康被害に繋がるわけではないが、データとして示されると、人間の行動心理としては、地下鉄の利用に対してネガティブになりやすい。


このような空気品質のチェックは、IoTデバイスの進化によって個人でも測定が可能になっている。米サンフランシスコで2013年に創業した「Awair」は、住宅やオフィスなど、屋内空間の空気品質をモニタリングできるデバイスを開発する新興企業で、主力商品の「Awair Element」は、PM2.5、化学物質、二酸化炭素(CO2)、温度、湿度のレベルを測定することができる。測定された空気の状態は、モバイルアプリからグラフとスコア(点数)によって可視化することができる。価格は149ドルの設定で、新型コロナ流行後の注文が殺到している。

Awair社では、不動産事業者向けに「Awair Omni」という室内空気の管理システムも開発している。こちらの製品には、一般向けよりもハイグレードなセンサーが使用されており、PM2.5、化学物質、二酸化炭素(CO2)、室内光の強度、アンビエントノイズ(暗騒音)の7種類のデータがモニタリングできる。

オフィスビルで働く従業員の集中力を高める上で、これまでは「空気の質」をあまり意識してこなかったが、家具、内装の塗料、カーペット、芳香剤などから濃度の高い物質が出ていて、仕事の集中力を下げていることもある。こうした室内空気質の分析は「IAQ:indoor air quality」と呼ばれ、次第に重要視されるようになっている。

Awair社は、創業当初からIAQの調査研究を行っているが、今回の新型コロナにより、オフィススペースの全体的な需要は減少する一方で、健康に配慮したIAQの管理を適切に行っている物件の付加価値は高まり、該当物件の家賃相場は上昇すると予測している。

また、IAQのスコアを向上させるには、室内の湿度は40~60%となるように管理して、空調設備のフィルターは定期的に交換すること、給水管や排気口にもカビが発生していないことを定期点検することも重要になる。暖房、換気、空調設備の総称は、「HVAC(Heating, ventilation, and air conditioning)」と呼ばれるが、新型コロナやインフルエンザのウイルス感染の予防策として、HVACの管理メンテナンス分野も、今後の需要が伸びる市場とみられている。

Awair Element紹介動画

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